日本の小売業界、とりわけ百貨店セクターは長年、長時間労働、不規則なシフト勤務、土日祝日の休暇取得の困難さといった構造的な課題を抱えてきた。しかし、急速な少子高齢化に伴う労働人口の減少と、優秀な人材の獲得競争がかつてないほど激化する中、大手百貨店各社は「働き方改革」を経営の最重要アジェンダとして位置づけ、労働環境の劇的な改善(ホワイト化)を推進してきた。

本レポートでは、2026年現在の最新の業界動向を踏まえ、各種企業口コミデータ、厚生労働省の公表データ、および各社のサステナビリティレポート等の定量データに基づき、純粋な百貨店セクターに特化した「ホワイト企業ランキング」を構築する。スーパーマーケットや飲食チェーンなどの異業種を完全に排除し、同一のビジネスモデルを持つ百貨店同士の労働環境を厳密に比較することで、その背景にある人事戦略、ダイバーシティ推進、および構造的変化について網羅的かつ多角的に分析する。

【こんな人におすすめ】

  • 百貨店・小売業界への就職・転職を検討しており、ワークライフバランスや長期的なキャリア形成を最重視する求職者
  • 小売業界における最新の人事制度(時短勤務の延長、長期連続休暇制度、直勤務制など)や労働環境の改善事例に関心のある人事担当者・経営層
  • 女性のキャリア形成、産休・育休制度の充実度、および管理職登用比率に焦点を当てた企業研究やESG投資の分析を行いたいアナリストや研究者
  • 各百貨店の月平均残業時間、有給休暇消化率、女性社員比率などの具体的な定量データに基づいた、客観的な企業評価や業界内の立ち位置を知りたい方

1. 百貨店業界における「ホワイト度」の定義と定量比較

本分析におけるランキングは、単なる主観的な口コミ評価の羅列にとどまらず、残業時間の少なさ、有給休暇の取得率、育児支援制度の充実度、および柔軟な働き方の導入実績という複数の客観的指標を総合的に評価したものである。過去のキャリコネが実施した「小売業界のホワイト度が高い企業ランキング」のデータ 1 をベースとしつつ、OpenWorkにおける社員クチコミスコア 3、および各社が公表する最新の労働基準・サステナビリティデータを統合し、厳密に百貨店のみを抽出して再構築した。

2026年 百貨店 ホワイト ランキング総合表

以下の表は、各社の労働環境を示す主要な定量データと、その根拠となる公式ソース・検証データ(URL)をまとめたものである。企業情報には必ず参考数値を提示し、相互のデータに矛盾が生じないよう厳密な比較を行っている。

順位企業名月間平均残業時間有給休暇消化率 / 取得実績主なホワイト化・労働環境改善の取り組み情報ソースURL
第1位高島屋4.5時間年間平均10.3日取得小学4年生までの育児勤務制度、年間休日122日、プラチナくるみん・えるぼし認定取得https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000284.000018764.html
第2位三越伊勢丹HD11.4時間78.6%営業時間の30分短縮、9時間営業店舗での一直勤務体制導入、年4回の連続休暇(各1週間)促進https://work-holiday.mhlw.go.jp/detail/0493.html
https://news.mynavi.jp/article/20191025-914453/
第3位J.フロント リテイリング (大丸松坂屋)非公開 (システムによる徹底管理)年2回の10日間連休10日間の連続休暇取得制度(年2回)、フレックス制度・テレワーク制度の活用、ICカードによる個人別時間管理https://www.j-front-retailing.com/ir/library/pdf/sustainability/2021/J_FRONT_2021_J-39.pdf
第4位阪急阪神百貨店10〜20時間程度76.4%夜間対応なし、特別休暇・慶弔休暇と組み合わせた連休取得推進、従業員向け割引販売制度https://doda.jp/DodaFront/View/JobSearchList/j_ind__1101S/-oc__0317M/-op__60/-preBtn__2/
第5位そごう・西武15.0時間59.1%業界水準と比較すると残業時間はやや長いが、月間15時間という一般的には低い水準を維持しワークライフバランスを確保https://www.openwork.jp/a0910000002WZ89/compa/a0910000000Fqnd/

この定量比較から読み取れる最も重要な第一のインサイトは、業界トップクラスの企業において「月間残業時間が15時間以下(上位企業に至っては5〜11時間台)」という、従来の小売業界の常識を根底から覆す水準が達成されている点である 1。次項以降で、上位企業がなぜこれほどの労働環境を構築できたのか、その具体的なメカニズムと波及効果を深掘りしていく。

2. 第1位:高島屋の圧倒的なホワイト度と「ES(従業員満足)=CS(顧客満足)」の哲学

小売業界全体の「ホワイト度が高い企業ランキング」において堂々の1位を獲得した高島屋は、労働環境の客観的数値において他社を大きく引き離している 1。月間の所定外労働時間(残業時間)はわずか4.5時間であり、年間休日は122日を確保している 1。この数値は小売業界にとどまらず、日本の全産業の平均と比較しても極めて優秀な水準である。

2.1 労働環境を支える企業理念と歴史的背景

高島屋の労働環境改善の根底には、「お客様に豊かなライフスタイルを提案するためには、従業員自身がゆとりある豊かな生活を送っていなければならない」という確固たる企業哲学が存在する 1。この理念は、同社の長い歴史の中で培われてきたものである。 1831年(天保2年)に京都で古着・木綿商として創業した同社は、1896年(明治29年)には京都南店に百貨店形式のショーウィンドウを日本で初めて設置するなど、常に近代小売業のプロトタイプを創造してきたパイオニアである 1。この「常に先駆者である」というDNAは、現代においては商品展示の手法から「先進的な人事制度の構築」へと受け継がれている。

シフト勤務が常態化する百貨店において年間122日の休日を確保するためには、高度な人員配置の最適化と、業務の属人化を排除するオペレーションの標準化が不可欠である。高島屋は「4週8休」の基本シフトに加え、連休を組み合わせることで確実な休日取得を実現しており、従業員が心身ともにリフレッシュできる環境をシステムとして担保している 1

2.2 多様化する休暇制度の拡充

単なる休日の日数だけでなく、その「質」と「目的」に応じた多彩な休暇制度が整備されている点も特筆に値する。高島屋では、以下のような多様なライフイベントに対応する休暇制度が運用されている 1

  • 育児休職および出産休暇
  • 配偶者分娩休暇(男性社員の育児参加を強力に後押しする制度)
  • 介護休暇
  • ボランティア休暇
  • スクールイベント休暇(子どもの学校行事に参加するための専用休暇)
  • ワークライフバランス休暇

これらの制度が形骸化することなく実際に機能していることは、月間平均残業時間が4.5時間、有給休暇の平均取得日数が10.3日というデータによって裏付けられている 1

2.3 突出した女性活躍推進と「小4の壁」を打破する育児勤務制度

百貨店は顧客の多くが女性であり、従業員に占める女性の割合も高くなる。高島屋の場合、採用した労働者(総合職)に占める女性比率は年度によって46.2%〜49.7%で推移しており、採用段階から極めてジェンダーバランスの取れた(パリティに近い)構成となっている 6。また、採用における男女別の競争倍率を見ても、男性11.5倍に対して女性11.9倍(別年度では男性19.6倍に対して女性22.3倍)と、性別による不当な選考の偏りがないことが証明されている 6。正社員全体に占める女性労働者の割合も56.1%〜56.5%に達している 6

この豊富な女性人材を経営層へと引き上げ、長期的なキャリア形成を支援するため、同社は法定基準をはるかに超える育児支援制度を展開している。 最も象徴的なのが、「育児勤務制度」が子どもが小学4年生になるまで利用可能である点だ 1。法律が定める短時間勤務制度の義務化は「3歳未満」であるが、高島屋はこれを10歳(小学4年生)まで延長している。日本の労働社会においては、「小1の壁」(保育園から小学校に上がる際に預かり時間が短くなり、働き続けられなくなる問題)が長年の課題とされてきた。高島屋はこれを企業側がシステムとして吸収し、女性社員のキャリア断絶を防ぐという明確なソリューションを提示している。

この結果、育休復帰後にキャリアが途切れることなく、昇格試験を通過すれば男女の区別なくキャリアアップできる環境が整っている。実際に、課長や次長クラスに多数の女性管理職が在籍し、取締役レベルにも女性が登用されているという口コミデータは、この制度設計の正しさを証明している 1。こうした取り組みは外部機関からも高く評価されており、厚生労働大臣からの「プラチナくるみん」認定や「えるぼし」認定の取得、さらには「女性が輝く先進企業2017」における内閣総理大臣表彰の受賞といった客観的エビデンスに直結している 1

3. 第2位:三越伊勢丹ホールディングスにおける大胆な構造改革と高待遇

第2位に位置する三越伊勢丹ホールディングスは、高島屋とは異なるアプローチで労働環境の劇的な改善に成功している。同社の戦略の核心は、営業時間そのものの見直しと、シフト体制の抜本的な構造改革による「業務量の絶対的削減」である 8

3.1 営業時間の短縮と「一直勤務制」の導入による残業削減のメカニズム

三越伊勢丹は、従業員の所定外労働(残業)を削減するため、10時間営業を行っていた店舗において営業時間を30分短縮するという経営決断を下した 9。小売業において営業時間の短縮は、ダイレクトに売上機会の損失に繋がるリスクを伴うため、極めてハードルの高い施策である。しかし同社は、無秩序な売上至上主義から、利益率の向上および従業員のエンゲージメント重視へと大きく舵を切った。

さらに革新的なのは、9時間営業の店舗において、従来の早番・遅番といった「交代制(シフト制)」の勤務を廃止し、「一直勤務(全従業員が同じ時間帯に出退勤する体制)」の整備を進めたことである 9。この一直勤務制の導入がもたらす二次的な波及効果は計り知れない。従来のシフト制では、早番と遅番が交差する時間帯に過剰な人員が配置される無駄が生じやすく、また引き継ぎのためのコミュニケーションロスやサービス残業が発生しやすかった。一直勤務によりこれらの非効率が完全に排除された結果、三越伊勢丹の月間平均残業時間は11.4時間という低水準に抑えられている 5

3.2 圧倒的な有給休暇消化率と「年4回の1週間連続休暇」

三越伊勢丹のもう一つの巨大な強みは、78.6%という極めて高い有休消化率である 5。そごう・西武(59.1%)と比較しても約19.5ポイント高く、業界トップクラスの消化水準を誇る 5

この高水準を物理的に支えているのが、「1年に4回、各1週間の連続休暇期間を設ける」という強力な有給休暇の連続取得促進制度である 9。日本のサービス業・小売業において、1週間の休暇を年間に4回も取得できる企業は極めて稀である。この制度は単にリフレッシュを目的とするだけでなく、特定の人材に業務が依存する「属人化」を防ぎ、誰が休んでも店舗運営が回る強靭な組織体制(バックアップ体制とマニュアル化)が構築されていることを証明している。

興味深いデータとして、OpenWork(社員クチコミサイト)における比較がある。キャリコネのホワイト度ランキングでは高島屋が1位であったが 1、OpenWorkの「待遇面の満足度」スコアにおいては、高島屋の2.96に対して三越伊勢丹は3.20というより高いスコアを獲得している 3。これは、残業時間の圧倒的な少なさ(4.5時間)を重視する指標では高島屋が優位に立つ一方で、給与水準と連動した総合的な待遇満足度や、年間4回の長期連休という独自のバケーション制度が、三越伊勢丹の従業員から極めて高く評価されていることを示唆している。

4. 第3位〜第5位:業界全体のホワイト化を牽引する大手各社のアプローチ

上位2社に続き、J.フロント リテイリング、阪急阪神百貨店、そごう・西武といった大手百貨店も、各社固有の戦略で労働環境の改善を進めている。これらの事例を比較分析することで、業界全体に広がる「ホワイト化」のメカニズムがより鮮明になる。

4.1 第3位:J.フロント リテイリング(大丸松坂屋)のデジタルと制度の融合

J.フロント リテイリングおよび大丸松坂屋百貨店は、テクノロジーを活用した労働時間管理と大胆な休暇制度を組み合わせることで、次世代型の働き方を実現している。同社は有給休暇の取得促進策として、所定休日と有給休暇を組み合わせた「10日間の連続休暇」を年2回取得できる制度を導入している 10。年間を通じて計20日間の完全なオフを提供することは、従業員のメンタルヘルス維持や自己研鑽(リスキリング)の時間を確保する上で絶大な効果を発揮する。

また、残業削減に向けてはフレックス制度やテレワーク制度を積極的に活用している 10。店頭での対面接客業務が中心となる百貨店において、テレワークを導入することは一見矛盾するように思える。しかし、外商部門の営業活動、バックオフィスの企画・マーケティング・人事部門、あるいはオンライン接客などの新たな領域において柔軟な働き方を適用することで、組織全体の労働時間を適正化しているのである。さらに、ICカードによる個人別時間管理を徹底し、ノー残業デーを実施することで、サービス残業を物理的・システム的に排除する仕組みを構築している 10

4.2 第4位:阪急阪神百貨店の堅実なワークライフバランス

関西圏を強固な地盤とする阪急阪神百貨店は、平均残業時間を月間10〜20時間程度に抑えつつ、夜間対応をなくすことで従業員の生活リズムの安定を図っている 11。有給休暇取得率も76.4%と極めて高く、三越伊勢丹(78.6%)に肉薄する水準である 5。特別休暇や慶弔休暇と組み合わせた連休取得を推進している点において、三越伊勢丹やJ.フロント リテイリングと共通の「まとまった休日の確保」という業界トレンドを踏襲している 11。また、従業員向けの割引販売制度などの福利厚生も充実しており、百貨店ならではの働くメリットを提供している 11

4.3 第5位:そごう・西武のベースライン比較

一方、そごう・西武に関する比較データによれば、月間平均残業時間は15.0時間、有給消化率は59.1%となっている 5。三越伊勢丹等の上位陣と比較すると数値面での改善余地は残されているものの、月間15時間という残業時間は1日当たりに換算すれば45分未満であり、かつての「過酷な長時間労働が当たり前の小売業」というイメージからは完全に脱却していると言える 5。業界全体のボトムアップが進んでおり、各社が競い合うように労働条件を開示し改善を進めることで、百貨店セクター全体のベースラインが劇的に引き上げられているのである。

5. 百貨店業界における「ホワイト化」の構造的背景と深層要因

なぜ、百貨店はここまで徹底して労働環境の改善(ホワイト化)を推進しなければならなかったのか。その背景には、小売業界を取り巻く深刻なマクロ経済的要因と、ビジネスモデルの構造的な転換が存在する。本章では、データから読み取れる二次元的・三次元的なインサイト(深層要因と波及効果)を考察する。

5.1 労働力不足と「ヒューマンキャピタル(人的資本)」の再定義

日本の生産年齢人口の減少は、労働集約型産業である小売業に最も早く、かつ深刻な打撃を与えた。さらに、Amazonに代表されるEコマース(EC)の台頭により、消費者は「単にモノを買う」だけであれば実店舗に足を運ぶ必要がなくなった。このパラダイムシフトにおいて、実店舗である百貨店が生き残るための唯一の差別化要因は、「高度な接客サービス」、「空間の魅力」、そして「パーソナライズされた顧客体験」である。

極上の顧客体験を提供するためには、精神的にも肉体的にも疲弊していない、高いモチベーションを持ったプロフェッショナルな従業員が不可欠である。「従業員自身が豊かなライフスタイルを送っていなければ、顧客に豊かなライフスタイルを提案できない」という高島屋の理念は 1、まさにこの経営課題に対する最適解である。劣悪な労働環境(ブラック企業化)は、優秀な販売員の離職を招き、結果として顧客体験の劣化とブランド価値の毀損という負のスパイラルを引き起こす。したがって、百貨店におけるホワイト化は単なる福利厚生ではなく、高付加価値型のビジネスモデルを維持するための「必須のインフラ投資」に他ならない。

5.2 営業体制の最適化がもたらす利益率向上とROIの最大化

三越伊勢丹が取り組んだ営業時間の短縮や一直勤務制の導入は 9、「労働環境の改善」と「コスト構造の最適化」がトレードオフの関係ではなく、強い相乗効果を生むことを証明している。

従来のシフト制では、先述の通り早番と遅番が重なる時間帯に人員が過剰になり、引き継ぎのための非生産的な時間が発生していた。一直勤務制への移行は、この無駄な人員のオーバーラップを排除し、人件費のROI(投資対効果)を最大化する。さらに、営業時間を縮小することで、莫大な店舗面積を抱える百貨店にとって重荷となる光熱費等の固定費削減にもダイレクトに寄与する。従業員の残業時間が減少し(三越伊勢丹で月11.4時間、高島屋で月4.5時間) 1、ワークライフバランスが向上することで離職率が低下すれば、莫大な採用コストや新人教育コストの削減にも繋がる。つまり、労働時間の削減は、短期的には売上を微減させるリスクがあっても、中長期的には営業利益率を押し上げる強力なドライバーとなるのである。

6. ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)と女性活躍の最前線

百貨店のホワイト化を語る上で欠かせないもう一つの柱が、女性のエンパワーメントとキャリア形成支援である。百貨店は伝統的に女性従業員の比率が高い業界であるが、昭和から平成初期にかけては「販売現場は女性、マネジメント層や経営企画は男性」という見えないガラスの天井が存在していた。しかし、本分析のデータが示す通り、その構造は2026年現在、完全に崩壊している。

6.1 「マミートラック」からの脱却とフェアな評価・昇格制度

日本の多くの企業において社会問題化してきたのが、出産・育児を経て職場に復帰した女性社員が、出世コースから外れて補助的な業務に回される「マミートラック」問題である。制度上は休業できても、復帰後のキャリアパスが閉ざされていれば、それは真のホワイト企業とは呼べない。

この課題に対し、高島屋の事例は極めて完成度の高いソリューションを提示している。同社では、小4まで利用可能な育児勤務制度などの手厚い時間的サポートにより、育休明けでもキャリアが途切れることなく、より高いステップを目指せる環境が整っている 1。特筆すべきは、「昇格試験に合格すれば男女差なくキャリアアップできる」という透明性の高い実力主義・成果主義が徹底されている点である 1

これにより、単に「働きやすい(休みやすい・負担が少ない)」だけでなく、「働きがいがある(正当に評価され、権限のあるポジションに就ける)」という、現代の求職者が求める両輪が機能している。結果として、課長・次長クラスのみならず、経営の意思決定層である取締役レベルへの女性登用が実現している事実は、同業界を目指す女性にとって極めて強力な動機付けとなる 1

6.2 採用から定着までのジェンダーパリティの実現

高島屋のデータに顕著に表れている通り、採用段階における男女の競争倍率の均等化(男性11.5倍:女性11.9倍など)と、総合職における女性採用比率の高さ(約50%)は、入り口の段階から性別によるバイアスが排除されていることを示している 6。こうしたフェアな採用活動と、小4までの手厚い育児支援 1 がシームレスに繋がることで、正社員の過半数(56.1%〜56.5%)を女性が占めるという強固な組織構造が維持されている 6

7. 2026年以降の百貨店業界における次世代人事戦略の展望

これまでの網羅的な分析を踏まえ、2026年以降の百貨店業界において「ホワイト企業」の定義がどのように進化していくのか、その展望と中長期的なインサイトを提示する。

7.1 労働時間の「量的削減」から「質的向上」へのシフト

これまでの働き方改革の焦点は、「いかに残業を減らすか」「いかに有給休暇を取らせるか」という量的削減のフェーズにあった。高島屋の月間4.5時間 1 や三越伊勢丹の月間11.4時間 5 という驚異的な残業データは、この第一フェーズが既に成熟期に達していることを示している。 今後の次世代人事戦略においては、削減された時間をどのように従業員の「リスキリング(再教育)」や「健康増進(ウェルビーイング)」に投資するかが問われる。J.フロント リテイリングが行っているテレワーク制度やフレックス制度の拡充 10 は、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方を促進し、従来の店舗販売にとどまらない新たなビジネスモデル(ライブコマースの企画、富裕層向けのアート・不動産コンサルティングなど)の創出を後押しする土壌となるだろう。

7.2 「休むこと」の組織論的価値の再評価とDXの加速

三越伊勢丹の「年4回の1週間連続休暇」 9 や、大丸松坂屋(J.フロント リテイリング)の「年2回の10日間連続休暇」 10 に見られるように、まとまった休みを取る権利は、もはや一部のバックオフィス部門だけのものではない。現場の販売員を含めた全社規模でこの制度を回すために不可欠なのが、業務の標準化とデジタル化である。

特定のベテラン販売員の頭の中にしかない顧客情報や接客ノウハウを、CRM(顧客関係管理)システムやAIツールに集約し、誰が対応しても同じクオリティのサービスを提供できる基盤がなければ、長期休暇制度は店舗運営の崩壊を招く。つまり、各社の有給休暇取得率の高さや連休制度の成功は、その企業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の進展度合いと、組織の近代化レベルを測る最適なバロメーターとなっているのである。

7.3 多様化するライフステージと介護離職へのプロアクティブな対応

高島屋の「小4までの育児勤務制度」 1 や「配偶者分娩休暇」に代表されるように、社員のライフステージ(結婚、出産、育児)に合わせた働き方のオプションを提供できるかどうかが、トップタレントを惹きつける最大の鍵である。 さらに2026年以降の日本社会において直面する最大の危機は、「介護離職」である。従業員の平均年齢が上がる中、育児だけでなく、高島屋が導入している「介護休暇」や「ワークライフバランス休暇」などの多目的かつ柔軟な休暇制度をさらに拡充し、それらが「制度として存在するだけでなく、実際に取得されている(心理的安全性が担保されている)」という企業風土を構築できた企業のみが、次なる時代も業界をリードしていくことができる。

結論

本レポートによる定量・定性データの網羅的な分析の結果、2026年現在の百貨店業界は、かつての「長時間労働・不規則な休み」が常態化した環境から劇的な進化を遂げ、日本社会全体における「働き方改革のフロントランナー」へと変貌していることが確認された。

高島屋の圧倒的な残業時間の少なさ(4.5時間)と、女性のマネジメント登用を支える小4までの育児勤務制度 1。三越伊勢丹の一直勤務化による構造的な業務効率化と、高い有休消化率(78.6%)に裏打ちされた年4回の長期休暇 5。J.フロント リテイリングの年間20日間に及ぶ連続休暇の制度化とフレックス・テレワークの活用 10。これらの定量データと施策のエビデンスは、各社が人的資本への投資を経営戦略の中心に据え、持続可能なビジネスモデルの構築に成功していることを強く示唆している。

求職者、投資家、そして業界アナリストは今後、単なる目先の売上規模や初任給の額面だけでなく、本ランキングで提示したような「客観的な労働環境データ」と「従業員のウェルビーイングに対する企業のコミットメント」を、長期的な企業価値を測る最大の指標として注視していくべきである。百貨店という産業が提供する「豊かさ」は、もはやショーウィンドウに飾られた商品というモノの価値だけではなく、そこで働く従業員の豊かで満たされた働き方そのものによって体現されているのである。

引用文献

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  2. 小売業界の「ホワイト度が高い企業ランキング」発表! 1位は高島屋(企業口コミサイトキャリコネ), 7月 7, 2026にアクセス、 https://www.excite.co.jp/news/article/Prtimes_2019-10-24-18764-284/
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  6. 女性の活躍推進企業データベース 公表内容 企業名 株式会社 高島屋(卸売業・小売業) 認定等, 7月 7, 2026にアクセス、 https://www.takashimaya.co.jp/base/corp/topics/190228.pdf
  7. 女性の活躍推進企業データベース 公表内容 – 高島屋, 7月 7, 2026にアクセス、 https://www.takashimaya.co.jp/base/corp/topics/170207.pdf
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